日蓮宗の開祖である日蓮聖人が遺したお言葉は、心豊かに生きる知恵が詰まっています。
今回ご紹介するのは、『松野殿御返事』の一節です。
御遺文 原文
魚の子は多けれども魚となるは少なく、菴羅樹の花は多くさけども菓になるは少なし。
人も又此のごとし。菩提心を発す人は多けれども退せずして実の道に入る者は少なし。
すべて凡夫の菩提心は多く悪縁にたぼらかされ、事にふれて移りやすき物なり。
鎧を着たる兵者は多けれども、戦に恐れをなさざるは少なきがごとし。
・御遺文名『松野殿御返事』
・建治2年(1276年)
・日蓮聖人 55歳
御遺文 現代語訳
魚の卵から稚魚になる数は多いが、成魚となるものは少なく、菴羅樹の花は多く咲くが、果実になるのは少ない。
人間も同様である。仏道を求める心をおこす人は多いが、どこまでも真実の仏道を求めつづける者は少ないのである。
我々凡人が仏道を求める心は、さまざまな邪悪な条件によって迷わされ、事あるごとに変わりやすいものなのである。
例えるなら、鎧をつけていかにも強そうに見える武士は多いけれど、いざ戦いになってみると敵を恐れず勇敢に戦う武士が少ないようなものである。
御遺文 解説
熱しやすく冷めやすいのが人の常です。また一生懸命にひとつの道を進もうと思っても思わぬ邪魔が入るものです。
仏道に置き換えると、私たちのなかに秘められている「信心」に目覚め菩提心を起こす人は多くいますが、その気持ちを捨てずに仏道を進み続ける人は少ないのです。
ただ、それが私たちなのです。日蓮聖人が「火のような信心ではなく、水のような信心であれ」とおっしゃったように、小川に水がゆるやかに流れるかのように、絶やさず続けていくことが大切です。
南無妙法蓮華経
【参考文献】
「1日1訓 日蓮聖人のお言葉」
著:渡辺宝陽
発行:日蓮宗新聞社
「1日1訓 日蓮聖人のお言葉」
著:渡辺宝陽
発行:日蓮宗新聞社